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2010年4月6日火曜日

服喪のスートラ7 プルトニュウ夢



暗い右扉から沸いたように二人の男が進み出てミイラを箱に入れている
左の箱の中は分からない 目の前のは胎児だ 男供はそれを斧でズバッと割った 
どんな局面にも「逃げないぞ」そう覚悟を決めてしまえば夢は怖くない
すると映像を伴って大気圏外に飛び出すものが在る
金剛界曼荼羅が宇宙軍団となって迫ってきたが 太陽風に失速して路地裏ドラえもん竹コプターやブリジッド・バルドー ブラジャーのワイヤーに引掛かって落ちた
それからは飛べなくなったが電柱の下からも粗筋だけはどんどん続いている

花川戸から霞ヶ関で降りたつもりが飯田橋だった 桃の花が満開で教授たちは二日酔いの影を引きずっておつな登校風景がしばらく続いた
鉄パイプの策がぐらぐらゆれているのを飛び越えキャンパスに入ると
「本学学生は学校側と団交中 入学希望者は遅刻で共闘して欲しい」とヘルメットが神楽坂のほうに目線を上げた
ここで共闘すると面接に遅れてしまう 共闘は面接の隠し味かもしれないがまだ入学していないのでそこのところは分からない 立て看板が校舎と講堂を割っていた
交互に舌を出しながら二人連れの女が追い越していった ブレイクの「最後の審判へ向かう告発者 裁判官 死刑執行人の三位一体」という水彩ペン画があったっけ
ヘルメット連が窓ガラスを一枚残らず熱心に割って入学祝いしてくれた

上映とオープニングが終わって暗幕を引き寄せようとしたとき
稲妻が二本走り 神楽坂の丘陵から電子レンジ ガス台 茶碗 火炎瓶などガラクタが風に乗った羽毛のようにあふれ続けた
「校舎は高台にあるので入学に支障は無い」とマイクは叫ぶのだが針の無い時計台と机の下に隠れた生徒を何から守ろうとするのだ 一体どこの墓穴が吹き出したのだ 何時の誰の漂流記なのだ ここにあるのは
「電源は切ったほうが良いのでしょうか」
神楽坂を転がり落ちる燃えない金のゴミに 燃えるごみ 犬猫人体から すずめ ゴキブリ
薪能仕立ての講堂ではイントロとして花川戸木遣り団が櫓を一本づつ鯔背に担いでいたが 閃光におどろいて全員が肩から落とした

演壇からヘルメットが顔を出すと新入生の涙が一斉に机にぽろぽろこぼれ落ちた
学食ではさきほどの二人連の話
「君たちとは一度どこか出会っているよね」思い切って話に分け入ると
「この人 子供まで作っておいて 忘れてるわ」顔を見合わせ百円寿司を食べ続けた
「さっき変な夢見てたんだ 神楽坂方面に 二本の火柱が立って」
「議事堂は狙われるようなことをして居たんでしょうか」

結局庶民は 議事堂に一センチ四方の穴を一発も開けられずに黙って居たんでしょうか
年端も行かない電気少年が コンピューターで 電気釜やチンのなかにプルトニウ夢を落したんじゃないでしょうね
キャンパス発の逃走用バスは 今燃え上がった神田川聖橋に入った
中野で百円寿司屋を覗くと例の二人が食べている
「さあ戸を開けて早く外の状況を見なさい」二人は黙々と食べ続けた
中野から荻窪への区間中 焼け焦げた生物がいくつも転がっていた

半透明のきのこ雲が広がり担ぎ切れない柱が割れ
「えー うっそ」という金切り声があった
荻窪行きのバスの固い座席で フォアグラをぬかれた鵞鳥のように揺れ
手の甲はブリキ栓を握り潰し 顔頭は落ち
電池はあるのにニュースはない
バスはビルが無いのにビル風が吹く 火焔地帯に入った

六弁のスピーカーが韻も踏まず がなり続けた  
ブリキの栓は食い込んで体内に入った 火と風がプルトニウ夢の雨に木霊し
ザーザー鳴る 肌身離さず愛用の携帯ラジオ「怖ちゃん」も落としていた

(2008・05・31)

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