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2010年4月6日火曜日

服喪のスートラ8 シェットランド犬シェーンが唸った



浜松東京間の車酔いだけでなく積年の疲れが「ウー」と出て気がつくと入院
「シェーン」と呼んでくれる主人とも別れ 知らぬ影に囲まれ点滴などという拷問
役立たずの足などおいらの一部でもなんでもない もう全身が邪魔だ
かつては 今いるところと 向かっていくところが すでに走っていて遠吠えし
動植物 火 水 土 メス犬や餌の臭いが ワンワンしていた
それが今病院の中でテンになってしまった

テンから痛みが発しているが 体の何処と特定するのも億劫だ
体内宇宙を血液列車に乗って心臓にたどり着いたと思ったら入院
心臓が呼気と吸気を連動させて勝手に生きて居やがる ワンワン
音源を求めるが おいらは目も開けられない 頭上の電灯さえ拷問してくる
「ウオ―ン ウオーン」寝言の遠吠え
血の糸を伝わり来る鼓動 糸電話の呼び出し音が邪魔だ

おいらの自由の身には首輪は邪魔だ
自立したと思ったら病院の天井の監視カメラのテンになっちまって漂っていた
ドッグフーズの缶詰やとんかつフライドチキンのオーラから遠く離れて おいらは気持ちだけの遠吠えをした
主人が見えないのは そこに居ないからでは無い おいらが入院を認めないからだ
おいらだけが仰向きにベッド括られ拷問されてるからだ
でも痛くもなんとも無い 気持ち良いぐらいだ ワンワン

おいらは都会というサバンナを億の人類の全裸体と一緒に エメラルドのそよ吹く風となって走っていると主人に報告してやろう ワンワン
空腹とか愛着とか取るとか預けたり借りたりの金利が邪魔となり
曼荼羅模様の鳥達から鳴き付かれるような 地を這うおいらへの拷問
鳥達は火山の噴火にあっても隊列を崩さず落ちてくるテン テン テン テンと
入院以来 懸命にうごめく生物が 空を埋めて色盲のハイビジョンに映りっぱなしだ 
「シェーン」主人の遠吠えもしている

バリカンでおいらは丸刈りにされた 頭は難しくて残された ライオンに近くなったあの夏 主人のほうが「うーん」と遠吠えしてた
ペニスの周りは敬遠されて手づかず ススキ色の白い毛に包まれた亀頭が ピンク色に幼稚っぽく覗いて ライオンに成り切らないのだ ワンワン
付き合いで主人と朝からビールも飲んださ それであっという間においらは入院さ
酔っ払ったおいらが運動不足にならぬよう皇居一周に連れて行ってくれた奥さん あれは はっきり言って肝臓に邪魔だった
おいらが女を知っているとか知らないとか 話題にされてた日常の広がりが急に病院でテンになってしまった
主人と奥さんの別居が おいらにとっては拷問だった

「個人の自由を求めての発展的夫婦解散」は 娘さんにも拷問だった
別居してからも顔を合わせないように 頬かむりして餌を持って主人の横にそっと座った奥さんに おいらは切な過ぎて遠吠えした
延命治療はやめてください 手のかからないテンになって消えるつもりです
皇居一周の際にでも タンポポの種に混ぜて お堀にでも放り投げて下さい ワンワン
あの夏 主人と外に出たとき、すぐ女学生が反応して「あっれー やだ やだ やだ」主人は持っていたおいらの綱をポロリと落としたもんだ 急に邪魔者扱いされたっけ
忠告しとくが 主人もこれ以上酒を飲み続けたら 確実においらを追いかけて入院さ

もうすぐテンもさっぱり消えるだろう いまさら励まされると拷問だ
おいらとの繋がりを落した主人は入院だ 誰にも届かぬ 犬笛のような最後の遠吠えさ 
綱を落した罰だ ワンワン 赤い糸が爪からD(ドッグ)・F(フーズ)の缶に繋げてあるのが 邪魔だ   

(2008・05・31)

服喪のスートラ7 プルトニュウ夢



暗い右扉から沸いたように二人の男が進み出てミイラを箱に入れている
左の箱の中は分からない 目の前のは胎児だ 男供はそれを斧でズバッと割った 
どんな局面にも「逃げないぞ」そう覚悟を決めてしまえば夢は怖くない
すると映像を伴って大気圏外に飛び出すものが在る
金剛界曼荼羅が宇宙軍団となって迫ってきたが 太陽風に失速して路地裏ドラえもん竹コプターやブリジッド・バルドー ブラジャーのワイヤーに引掛かって落ちた
それからは飛べなくなったが電柱の下からも粗筋だけはどんどん続いている

花川戸から霞ヶ関で降りたつもりが飯田橋だった 桃の花が満開で教授たちは二日酔いの影を引きずっておつな登校風景がしばらく続いた
鉄パイプの策がぐらぐらゆれているのを飛び越えキャンパスに入ると
「本学学生は学校側と団交中 入学希望者は遅刻で共闘して欲しい」とヘルメットが神楽坂のほうに目線を上げた
ここで共闘すると面接に遅れてしまう 共闘は面接の隠し味かもしれないがまだ入学していないのでそこのところは分からない 立て看板が校舎と講堂を割っていた
交互に舌を出しながら二人連れの女が追い越していった ブレイクの「最後の審判へ向かう告発者 裁判官 死刑執行人の三位一体」という水彩ペン画があったっけ
ヘルメット連が窓ガラスを一枚残らず熱心に割って入学祝いしてくれた

上映とオープニングが終わって暗幕を引き寄せようとしたとき
稲妻が二本走り 神楽坂の丘陵から電子レンジ ガス台 茶碗 火炎瓶などガラクタが風に乗った羽毛のようにあふれ続けた
「校舎は高台にあるので入学に支障は無い」とマイクは叫ぶのだが針の無い時計台と机の下に隠れた生徒を何から守ろうとするのだ 一体どこの墓穴が吹き出したのだ 何時の誰の漂流記なのだ ここにあるのは
「電源は切ったほうが良いのでしょうか」
神楽坂を転がり落ちる燃えない金のゴミに 燃えるごみ 犬猫人体から すずめ ゴキブリ
薪能仕立ての講堂ではイントロとして花川戸木遣り団が櫓を一本づつ鯔背に担いでいたが 閃光におどろいて全員が肩から落とした

演壇からヘルメットが顔を出すと新入生の涙が一斉に机にぽろぽろこぼれ落ちた
学食ではさきほどの二人連の話
「君たちとは一度どこか出会っているよね」思い切って話に分け入ると
「この人 子供まで作っておいて 忘れてるわ」顔を見合わせ百円寿司を食べ続けた
「さっき変な夢見てたんだ 神楽坂方面に 二本の火柱が立って」
「議事堂は狙われるようなことをして居たんでしょうか」

結局庶民は 議事堂に一センチ四方の穴を一発も開けられずに黙って居たんでしょうか
年端も行かない電気少年が コンピューターで 電気釜やチンのなかにプルトニウ夢を落したんじゃないでしょうね
キャンパス発の逃走用バスは 今燃え上がった神田川聖橋に入った
中野で百円寿司屋を覗くと例の二人が食べている
「さあ戸を開けて早く外の状況を見なさい」二人は黙々と食べ続けた
中野から荻窪への区間中 焼け焦げた生物がいくつも転がっていた

半透明のきのこ雲が広がり担ぎ切れない柱が割れ
「えー うっそ」という金切り声があった
荻窪行きのバスの固い座席で フォアグラをぬかれた鵞鳥のように揺れ
手の甲はブリキ栓を握り潰し 顔頭は落ち
電池はあるのにニュースはない
バスはビルが無いのにビル風が吹く 火焔地帯に入った

六弁のスピーカーが韻も踏まず がなり続けた  
ブリキの栓は食い込んで体内に入った 火と風がプルトニウ夢の雨に木霊し
ザーザー鳴る 肌身離さず愛用の携帯ラジオ「怖ちゃん」も落としていた

(2008・05・31)