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2010年4月5日月曜日

服喪のスートラ6 トマトの踊り



二つの安楽椅子衰弱体と老体 互いの顔についた飯粒を取り合って食らう性愛
睾丸をブラーッと遠心分離させて ボウルを投げ込むと「カッチーン」と鳴った 恩寵
1234,2234,3234,4234,5234,,,8234の肉体脱落指南
新聞紙張り重ね 分厚い書割でうごめく畦道歩行図譜
真っ赤な処女肛門 生で最もおいしい料理 甘いトマト
「にしわき さーん」客席を見返して死児たちが瞼で踊り

蚊人間の吸い口を客席に突き込んで
大野一雄のバックから 半陰半陽持ちつ 持たれつ
レコードのリフレーンに 転がった終りの無いトマト
白塗りの立ったままの死体が 無い綾取り紐を綾取って臨終に近寄ってゆく
書割「アダムの創造」が怒りに触れ 残ったET状態の指まで切断された
人影は無く マルドロールの棒切れがある

老年女形の色気について土方巽は 大股開き指南
上手非常口から登場の人物に照明係は嫉妬し 音響も同調して盲目踊りがすっ飛んだ
盲目は劇場からサーと引き上げると自宅アパートの窓に嵌まって半日の擬態窓枠体
擬態は噛みしめていた 犬の腹への嫉妬
その足跡をたどっていけばガムランからの恩寵
ジュースになって戸外に飛び散るトマト

1968年紀伊国屋ホール 二日目はうまくいった トマト
かすれるような音量「こんな別嬪見たこと無い」 川辺の隠れアベック
お互いの顔から奪う飯粒
空手振りの機械時計仕掛け
冷やし中華の肉体が マカロニ管へ 挿入される
アスベスト館に転がっていた雑誌付録赤いソノシート 

夜ゼミが風倉を鳴き満たし 照明が天井を駆け巡り テープを巻き戻すピンク・ノイズ
HOW TO  DRESSING UP THE VIRGIN  TOMATO 
音響室助手とチーフ 舞台監督 照明から遠く離れ 晒されたホワイトノイズの
筋子の腸  キリストは 死の直前に エリ・エリ・ランマで
「セーノ」と起こされて臨終する
不在が回収していった風倉 尽きない数々の見落とし 小杉 川仁

猫を袂に入れてボーダーライン 横切り
消された図譜「アダムの創造」 指はリヴォルバーに伸び
もんじゃ焼きのコテを 前髪飾りとして頬肉をこそぎ
蕩けたハンダ鏝の吃音が飛び交い舞台監督は「セミ セミ」と音響室に罵声投げつける
頼まないのに来た音響助手に感謝 ミュージック・コンクレート
現実のスタッフ達は 機材の影で立ったまま死んでいた インドネシア経由の性愛

死体の踊り 渋澤龍彦 吉岡実 琺瑯深皿大盛り 中華風肉団子
髭女と鬼籍老女の両性具有 消えない白い刺青
「下田夜曲はやめてくれ バッハ バッハ」 聖ボッカチオ風家庭料理の方へ叫んだ


(2008・05・31)

服喪のスートラ5  不機嫌そうなデスマスク



風倉 匠 を偲んで

薄く平面化して行く苔むした荒屋敷 
踝の立ち位置である煉瓦 
始原の点に成ろうとする粉末 
霧となって溶ける柱 
方法はすぐさまバルーンとなり 
水に浮かべると墨流しの倉が現れる

脚立から光を追って空中にロケット風船で飛び立つ倉 
新聞紙に梱包された木馬亭銀幕 
咳き込みの諏訪湖の黒いバルーン 
中で弾け飛んでいる 
奉納としての肉体 
メリケン粉の足跡に毛を生やし

都美術館中央に限界重力で釣り下がり  
永久運動の振り子は宇宙音を拾いながら 
秋田弁を獲得した肉体
VANの扉を引きちぎり 
時限爆弾さえ抱き込んで
振り子のように振動するバルーン

ずるずるとキリストの筋子を引きずっているバルーン 
風を食らって電話線も消えた 
そのとき天井を支えていた煉瓦 
アダムが指差している倉 
天地創造を含む荒屋敷 
天井となって天地を貫くセスティーナの柱

時を越え 天井を失ったパルテノン エジプトアメン 
痰で裏返され 吐き出される肉体 
脳を少し抉り アルミホイールの空洞で残った
文字に書かれると目的を失った メディア
無い右手が宇宙音を拾い受発信する

轆轤から何度も振り落とされる 
軋む音の重みを支える 
火かき棒が知っている 
葉蘭にモカ・コーヒーを飲ませていた 
生贄とともに吹き飛んだ 
出番の回数だけ脳陥没が見える

夜明け前 痙攣する倉の窓 錆びた五寸釘 海岸を漂う煉瓦
薄明に包まれる荻窪荒屋敷 誰もいないアスベスト舘 踊り狂う四本柱 
湯布院の独楽 「時間の矢」に逆らって渦巻け 白い粉末

(2008・7・31)

服喪のスートラ4 ママ ぼく でかける



語り手は「ゆけ ゆけ 二度目の処女」(1969年若松孝二監督映画)を新宿蠍座で観た男
「往生要集」恵心僧都はこの映像の切れ端を自殺を扇動したとして地獄へ落とすだろう 映画で地獄を示すために 
男は再び掘り起こす事になるのかな 二人の死体を 
舞台は原宿セントラル・アパート屋上 ポッポと月男は若松組お抱え吟遊詩人 
二人は屋上に落ちていたコーラの菊の紋章ブリキ栓をあどけなく握り締めた 
それが、手のひらに王冠型に突き刺さって痣となり血が噴出するも知らず



柿の木坂などをさ迷う臨死体験者 見えない肉体を纏った裸
隅田川を起点として東武線に寄り添って立ち並ぶ避雷針
夜は閉じた朝顔 昼顔 鎖陰である屋上
米のとぎ汁または小便が 舞台に流れ出て客席に瀑布の飛沫
ポッポと月男は迷わずビルからビルへとかけ渡された綱渡りを 
冥土 涅槃 餓鬼 畜生 修羅 親鸞 闇を開く



宇宙と血と泡箱と額紫陽花が開く
かび臭い地下室ベッドの裸
「行きつつある者は、行かない」は ゆけ
雷の巣から雨が迸り 二人がしがみついた避雷針
逆光で膨らんだ飛沫 ポッポを包む水
真夏の腐臭 浄化装置である屋上



夕立が光の在処を探し出し モノクロのフィルムに掠め取った
ハイビスカスの隣にひし形のドリアンが開く
人が流す赤い血 剣のさび 竜眼
地下室でホースだった桂冠詩人 月男のなめくじ裸
「心中しそこなったみたいで いやよ」雷雨にゆがむ避雷針下 ポッポは云った 
ホームレスになって子供が親を産むを確かめよ



幽閉者よ 葡萄前進して自動小銃を構え 
ラッキイ・セブンの瘋癲を殺害した屋上
雷はいま落ちるだろう 避雷針に
名前は消え 言語ゲームが始まりサヴァン症候群 脳を開く時
コンクリートにころがって漫画を読みたい 死ぬ前 二つの裸
「人間て 此処っから生まれてるの」 水から



記憶に打ち寄せる犯された海水
股間にまとわりつく砂粒を ポッポは陰部で食いながら溶かし
皮膚 肌を脱げ 骨肉 内臓を 太陽神経蒙を脱げ 
空に面した蜜室であり、空と鳥にも施錠した屋上
早回しされたぼくは 君の中のぼくを 君はぼくの中の君を切開する
ぼくたちは 衛星みたいに回りあっていた 太陽であった避雷針



吹き出す前の言語 そこに立っていた避雷針
宇宙は見えすぎだ 呼吸がすべてを姦通している
地上も宇宙も錆びたスペース・キイで開く
大ロング 鳥瞰の路面
朝霧が逡巡する屋上
カメラは 見下ろすばかり 血も出ない二つの裸



八月八日枕元にあった水 気が付けば原宿トリニティー教会を見下ろしている


(2009・5・21)

服喪のスートラ3 此の岸で鹿毛は留まる



苦も取り除かず もらい泣きしている悲などない
行くものは行かず 中観の果て 慈悲心鳥
宝蔵も曇鸞も道綽も善導も法然も親鸞もバクテリアとして嬰児級だ 
有機体を横目で睨んで飛び去ってゆく通過点である駅
いじめに気付いた時 炙り出されるマゾッホであった自己
微笑は2009年 台風となって阿闍世王を救い地球を揺する

天体望遠鏡の拡大された画像に宇宙風 揺らぎ
回転し捻じ切れる白夜の日まわり
北京の蝶が台風を発生させる 超因果風船現象 他者の影
灯明に集まって絶滅する虫は 人間に天誅を与える
降りる乗る乗り換えるすれ違う 何処にもある誰とも会わない駅
無いことにはじめて気づいた闇の灯明であり 始まり A地点

ぼくの人差し指とジイジの人差し指がÅ 波長で繋がった
懐中電灯を蛍光灯の星型の目印に当てると 小さな星はゆらゆら揺れた
「ジイジ去年と声がちがう!」「差し歯にしたからね!」
壁の色もピンクから空色に塗り替えた 短い夏の日
懐中電灯が立ち上げたUFOのある四畳半宇宙だ
もう一つの星が向こう側 空色の地平線に沈んだ 影となって

皇居前広場あたりに限りなくループを巻いて折り畳んだ影を置く
東京駅辺りに角膜があり 二重橋付近の信号機からはシグナルが映え
自動車は西側の一角で造られている 街中で自分の道を見付けることが出来る 
自動車は衛星によって首都高速に誘導され 定められた地区に到着するが激しく揺れる
その後は大型タンカーに詰め込まれ 新しい目的地へと旅立つ
長い航路でバラバラに解体され 部品から新しい車を組み立てる

歩行者を震え上がらせる 東京など都市 駅付近
瓦礫を横切って 犀の角 糞掃衣が行く
海に砕け散る流れに攫われながら 
呼び寄せられ 凭れかかった柳がゴッホの糸杉より
セクシーに揺れた
一瞬にして月を飲み込む宇宙

「大馬鹿者!」関係を保とうとする兄貴分の声がいつも注意する
ステーション新宿駅ステーション新宿駅
あきれた アジテーターの手が「こちら側へ来い!」とスクリーンから首を絞めに来て揺れる
夜明け夕闇の底抜けの空 五右衛門風呂の踏み板が沈む 
路地裏から見た風景 垣根越しに植木鉢軍団を舐めて空に駆け上るカメラアイ
「ポリスに抱かれて死んでった!」’60年代のアイツとの日々

流れは割れて閉じ揺れる 釣り人は一瞬宙にバタ足で浮き
川面に強烈な夕日 ここは魚座が支配している水駅
定時の停車 此の岸で鹿毛は留まる さっと消える魚影


(2009・5・14)